コスタリカ大使、アレクサンダーサラスアラヤ閣下との会談


一般社団法人日本ラテンアメリカカリブ振興協会(JAPOLAC)の設立に際し、

2021120日、当協会代表理事のリッテル・ディアス元駐日パナマ共和国大使と、名誉会員のマルタ・セラヤンディア元駐日エルサルバドル共和国大使は、アレクサンダー・サラス・アラヤ駐日コスタリカ共和国大使を訪問し、協会の目的と活動を説明すると共に、在京ラテンアメリカ・カリブ海諸国の各大使館との今後の協力体制について話し合いました。同大使館の公使参事官兼総領事であるウィリアム・カルボ氏も出席され、有意義な会談となりました。

『感染者数ではなく、脆弱性に焦点を合わせる』に関するレポート


作成者:Ritter Diaz、ビジネスコンサルタント
東京、2020 年 7 月 22 日

 

今年の 5 月 21 日、ブログに『経済、社会活動の再開:コロナウイルス COVID-19 の抑制 状況』という記事を書きました。その中で、私は公衆衛生の専門家ではありませんが、家族 や友人の幸福を祈る善良な一市民として、人々の生活や社会活動を長期的かつ広域にわた って制限することなく、コロナウイルスの大流行を終息させるための合理的な解決策を模 索し続けていると述べました。

パナマ政府は、感染拡大の初期段階だった 3 月の第 2 週目に、他国にならってロックダウ ンを発令しました。パナマ政府がとったこの決断は、油断のならないこのウイルスへの対応 策としては当然の措置だったと言えます。

その時点で、新たに発見されたこのコロナウイルス(以下 Covid-19)は、当時すでに認識さ れていたコロナウイルスグループに属するウイルス性呼吸器疾患であることが、すでに世 界的な常識となっていました。この背景については、2003 年に香港で検出された SARS- CoV-I と、2012 年にサウジアラビアで発見された同グループに属する MERS-CoV が挙げ られます。これらは全てウイルス性呼吸器疾患であるため、人から人へと容易に感染します。 一般的な風邪やインフルエンザで起こるのと同じように、ウイルス保有者の咳や、会話で発 生する飛沫から感染することが分かっています。

統計によると、Covid-19 は他の呼吸器疾患と比べて人体内での潜伏期間が長いため、この 特徴も伝播力を高める要因となっています。しかし、世界保健機関と世界各国の政府による と、感染した人々のうち 80%は軽度の症状または無症状であり、15%は酸素吸引を必要と する深刻な症状で、残りの 5%は人工呼吸器を必要とするような命に係わる症状がでる ことが報告されています。

Covid-19 のもう 1 つの特筆すべき特徴は、年齢を問わず、持病を持つ人々に感染した際の 攻撃性の高さです。事実、高齢者については基礎疾患や老化により、あるいは若者であって も肥満、糖尿病、心臓病、高血圧、癌、免疫不全などの持病がある人は、Covid-19 に感染 すると死亡するリスクが非常に高くなる傾向があります。Covid-19 感染者は現在、世界中 の病院にある集中治療室の大部分を占領し、その圧倒的な感染者数の多さは保険当局を脅 かすだけでなく、治療を必要とする人々のために必要なベッドや機器類の十分な確保が難 しい状況を生み出しています。

感染の拡大がパナマに到達したとき、パナマ保健当局は 3 月 13 日に緊急事態を宣言し、 その後、完全なロックダウンを命じ、広域にわたって人々の生活や社会活動が制限されまし た。もちろんこれは、パナマ国民の健康を守り、国内の感染拡大を早急に抑制することを 目的としたものでした。しかし、制限措置が実施されてから約 4 か月が過ぎましたが、

5 月末以降、感染者数は徐々に増加し、7 月には最高レベルに達しました。

この状況は、政府がこれまでにとってきた戦略を見直し、現在までに分かっている事実に 基づいた今後の行動方針を再構築するきっかけとなりました。この点に関して、私はいくつ かの提案を行いたいと思います。それはウイルスの蔓延を封じ込めるだけでなく、経済再開 の時期を明確に打ち出す為にも役立つと私は信じています。

まず、Covid-19 感染者の中で、症状が軽い人については自宅ではなくホテルに待機させる ことをお勧めします。家庭内に留まることで、人々の行動を制御することが困難になり、感 染のレベルが高まります。私たちパナマ人は根っからのラテン気質ですから、家で大人しく 療養するという感覚はありません。特に、症状が軽い場合はなおさらです。さらに、Covid- 19 は、私たちの社会に浸透してしまっている社会経済的な格差を露呈させました。ガイド ラインや自宅隔離などに従わない特定の市民の行動によって、その背景にある貧弱な教育 レベルが明らかとなったためです。また、ホテルに人々を待機させることは、パンデミック で大打撃をうけたホテル業界の収入を押し上げることにも一役買うでしょう。

第二に、Covid-19 がコントロール可能なレベルに達するまで、特に基礎疾患を持つ人々は 外出を自粛するように、全国的なメディアキャンペーンを行う事をお勧めします。メディア キャンペーンを行うことで、職場、学校、スタジアム、ジム、映画館、劇場、その他公共の 場において、市民はマスクを着用し、前述したように特に注意が必要な(リスクの高い)人々 の周辺では社会的距離を保つように、国民の意識を高める必要があります。

第三に、感染した人々の治療や現行の医療体制を支援するために、この全国的な取り組みに 民間のクリニックを含めることを推奨し、さらに多くの医療従事者を雇うこと、コンベンシ ョンセンター等に追加の医療施設を設置することをお勧めします。すでにいくつかの国で は、テントや様々な施設に医療設備を設置し、医療システムの崩壊が起きることを防いでき ました。

第 4 に、軽い症状(疲労、喉の痛み、軽い咳や発熱など)が現れた時点で、早期に医療機関で の受診を促すようなメディアキャンペーンを行うことが重要です。特にパナマにおいては、 これから梅雨が始まりますが、例年この時期には風邪が流行することもあり、十分な注意が 必要です。

第 5 に、感染レベルが高い地域(パナマの場合、チョレラ、アライジャン、サンミゲリート) や、新たに多くの感染が発生している場所に重点をおいて PCR 検査を行うことにより、 感染の経路を追跡し、感染拡大を抑制することが大切であると考えます。現時点で、パナマ 国中の感染レベルは非常に高いと言わざるをえません。これは、家での待機を余儀なくされ ている感染者や、ガイドラインに従わない無責任な行動をとる人々が要因となっています。

第6に、無症状の人々を検出し、人口における免疫を持つ人の割合を可視化する為に、抗体 テスト(Rapid Diagnostics Test-RDT、米国連邦医薬品局によって承認されている)を各首 都で実施することを推奨します。これらのテストは、偽陽性や偽陰性を回避するために、可 能な限り精度の高いもの(90%以上の正確率)を使用しなければなりません。この種のテスト は PCR テストを補完するものとして機能し、国内の感染経路を監視するのに役立ちます。

国が経済活動を再開する際には、政府は企業および各機関がスタッフに抗体検査(RDT) を実施することを許可するべきです。パナマ運河庁は間もなく、すべての従業員にこれらの テストを実施する予定です。

ここまでの提案は、政府が早期に経済活動を再開することを可能にします。我々が焦点を当 てるべき項目は、日々の新規感染者数の推移ではなく、退院者数や集中治療室・病床の状況 を把握することで、今後の死亡者数を可能なかぎり減らしていくことです。

要するに、もし政府が感染リスクの高い脆弱な人々(高齢者、持病を持つ人々)の保護に注力 すれば、毎日の新規感染者数について心配する必要はもはやなくなるでしょう。すでに私た ち国民は何が起きようとしているか理解しています。そして、私がすでに持病持ちの親戚に 注意を払ってきたように、各個人がお互いに、自分の愛する人たちを守るために行動するこ とが大切なのです。

ロックダウンのような制限措置を 3 ヵ月以上行っても良い結果をもたらさなかった場合、 それ以上同じような政策を続けることは、国の経済破綻を引き起こすだけでなく、誰も望ま ない、暴力にあふれた政治的不安定な社会を作る原因となるでしょう。

保険当局や専門家たちは、国民の健康を守るために、彼らに出来うる最大の努力を惜しむこ となく、これまで素晴らしい仕事をしてきました。しかし、現状は経済活動の再開・保護が 必要とされ、そしてそのためには、強いリーダーシップが求められています。米国の政治ア ナリスト、ザカリア・ファリードが述べたように、戦争は将軍だけに任せるべきではない、 非常にデリケートな問題なのです。(リーダーに任せっきりになるのではなく、各エリアの 専門家たちが集まって多角的に問題を検証することで、様々な方向からのアプローチが問 題解決の為には重要であるという意味)

ウィズ・コロナ(Covid-19 との共生)という風潮が広まる中で、世界的大流行を終息させ、 経済活動を正常化させるために、国のリーダーたちは新たな原動力を示さなくてはなりま せん。

多くの国がすでに経済を活性化させている一方で、その影響をうけ、今も様々な場所で新規 感染が発生しています。それは私が住んでいる日本も例外ではありません。 しかし、今こ そ日常を取り戻し、コロナウイルスとの共存を念頭に、感染リスクの高い人々の保護を最優 先に考えていくべきではないでしょうか。

 

訳:畑田紋奈

『メトロ 3 号線:パナマと日本の一大プロジェクト』に関するレポート


作成者:Ritter Diaz、ビジネスコンサルタント
東京、2020 年 10 月 23 日

 

1980 年代半ば、大学への進学を機にパナマシティへ引っ越したとき、私はパナマシティ郊 外のサンミゲリートに住むことになりました。当時私は、日中は仕事をしており、夜間にパ ナマ大学で授業を受けていました。そのため、毎朝 5 時 15 分頃に起床、午前 6 時のバスに 乗り、午前 8 時には職場に通勤しなければなりませんでした。授業を終えた後に帰宅する のは、大抵 深夜でした。家からパナマシティ中心部までの往復に、毎日 5 時間以上も費や していました。

現在、サンミゲリートの住民は、Metro of Panama, S.A.((株)パナマメトロ 企業名の為、英 字表記とする)の 1 号線の建設と運行のおかげで、職場や学校へ行くための長時間移動か ら解放されました。また、後に建設された 2 号線の完成によって、パナマシティの東側への 移動も可能になりました。どちらの輸送システムも 2010 年から 2018 年の間に建設され、 現在も定時運行されています。

しかし、パナマシティと西部地域を結ぶ 3 号線プロジェクトは、プロジェクトの複雑さの ために、そして現在はコロナウイルスの蔓延の影響を受けて、当初の計画よりも遅れていま す。1 号線や 2 号線と異なる点は、3 号線はパナマ運河を通過する必要があること、またパ ナマ政府と日本政府間の協力プロジェクトとして計画立案されたということです。

これに関連して、2016 年 4 月、バレラ大統領の東京への公式訪問中に、パナマと日本政府 はメトロ 3 号線の資金調達と建設に関する協力覚書の交渉を行いました。この取り決めで、 日本はパナマに 26 億米ドル相当の円借款を提供すること、そしてその返済期間は 20 年間 (6 年間据え置き後、20 年延べ払い)、金融のグリーン化によるほぼゼロ金利とすることで 合意しました。

この協定には、日本のモノレール技術を利用する内容も含まれており、これは日本が持つ高 度な技術(6 度の勾配でも走行が可能で、市内や複雑な地形をスムーズに移動できる)を考 慮したものでした。日本のモノレール車両は車内が広く、1 車両当たりの乗客人数を多くす ることができます(1 車両あたり最大 200 人が乗車可能)。また、環境面でも非常に優れて おり、低騒音であること、また、車で 2 時間かかるところ、メトロを利用すれば 45 分での 移動が可能となり、パナマ西部に住む住民の多くが車からメトロに切り替えることで、CO2 排出量の削減も期待されます。

事実、3 号線の資金調達と建設に関する協力覚書は、日本政府によって提唱、適用されたユ ニークな計画であり、ラテンアメリカカリブ地域における未来の交通インフラプロジェク トの良いモデルケースと言えます。しかし、もう一つの重要なプロジェクトである『パナマ 運河に架かる 4 つの橋』の建設が遅れたため、このプロジェクトは着工までに長い時間が かかりました。

前述のように、3 号線がここまで複雑なのは、パナマ運河を横断する必要があるという事に 原因があります。実際に、私が準備に携わった協力覚書には、橋を渡るモノレールの線路部 分も含まれていました。そのため、日本政府からは線路と橋との連結部分に対する財政支援 についても提案がありました。

しかし、橋建設プロジェクトの裁定は、2018 年 7 月、つまり日本とパナマ間の協力覚書か ら 2 年もの歳月が経った後に行われました。 また、この 4 つの橋の建設は 2019 年 5 月頃 に開始される予定でしたが、2019 年 7 月の政権交代後、ラウレンティノ・コルティゾ大統 領が率いる新政権は、3 号線プロジェクトの内容を変更し、モノレールは運河に架かる橋を 渡る代わりに、トンネルを通過することになりました。

コルティゾ政権は、両方のプロジェクトが 2 つの異なる合弁企業によって遂行されている こと、そして橋の建設が遅れているため、それが 3 号線の建設と完成に影響する懸念があ ることを説明しました。

橋建設プロジェクトは 2018 年 7 月に中国の合弁企業に発注され、3 号線プロジェクトは今 年 2 月に韓国の合弁企業への発注が決まりました。したがってパナマ政府は、それぞれの 契約で決められた工期内にプロジェクトを完了し、各合弁企業の責任を確保するために、プ ロジェクトを分離する方が良いと考えました。

恐らくコルティゾ政権にとって、パナマ運河の大西洋側に架かるアトランティック橋の建 設が遅れたことで、4 つの橋の建設も遅れるのではないかという懸念が生じ、また、3 号線 の建設、契約および経済へも影響をもたらすと考えたのです。

事実、この変更は 3 号線プロジェクトがさらに遅れることを意味し、パナマ政府は計画変 更の承認を得るために、日本政府との協議が必要になりました。現時点で私が知る限り、日 本政府はパナマの状況を理解し、パナマ政府から提案された修正案に同意しています。

トンネルの建設は、3 号線プロジェクトを担当する Metro of Panama, S.A.に当初の予算に は含まれない追加費用が発生することは間違いありません。したがって、Metro of Panama,

S.A.は、トンネル建設に必要な資金の調達の為に、以下の様な検討が必要になります。 1)3 号線プロジェクトを施工する韓国の合弁企業に資金提供を要求する。 2)プロジェクトを施工する企業が韓国企業であることから、韓国政府に働きかけ、

提携ローンについて交渉の可能性があるかを探る。 3)国際金融市場から資金調達する。
4)日本政府に追加の協力融資を要請する。
ただし、この最後の選択肢 4)については、日本政府がこのプロジェクトにすでに多額の資 金を投入していることから、実現の可能性は最も低いと考えられます。

トンネル建設案はパナマ運河庁に、トンネルが建設される予定の地域における運河床での 浚渫作業の計画を早めるよう促しています。これらの浚渫作業はトンネルの建設前に行わ れる必要があり、また、大型化が進むネオパナマックス船(*1)の円滑な航行に必要不可欠な 作業でもあります。(*1 拡張された第二パナマ運河を通行できる最大サイズ船の通称)

日本政府は、3 号線プロジェクトの資金支援と建設だけでなく、パナマ運河に架かる 4 つの 橋の資金支援と建設にも関心を持っていたことを、ここに記しておきます。これは、2014 年 3 月に、当時の日本外務大臣 岸田文雄氏とパナマ外務大臣 フランシスコ・アルバレス・ デ・ソト氏によって行われた合同声明を通じて合意されました。しかし、これらのプロジェ クトはバレラ大統領政権中に分離されました。バレラ大統領は、3 号線プロジェクトは日本 の協力によって遂行され、4 つの橋の建設は国際入札のプロセスを経ることを決定しました。

これらのプロジェクトを分離した理由は、日本が提案した計画がより高価な鋼橋だったこ とによります。また、この計画では、橋の構造物を設置する際に、船の通過を丸一日以上停 止させる必要があるため、パナマ運河運用の上で大きな問題となることでした。費用が安価 であることも挙げられますが、技術的な観点から考えても、運河の運用を中断させることな く、また設置が容易な斜張橋を用いる方が好ましいと考えられたわけです。そしてすでに、 パナマ運河にこれらの橋のうちの 2 つ、センテニアル橋とアトランティック橋は建設が完 了しています。

2016 年にパナマと日本の協力覚書に署名した後、2022 年頃には 3 号線の運用を開始する予 定が立てられました。しかし、4 つの橋の遅延、プロジェクトの変更、そして不測のコロナ ウイルスの大流行のよって、実際には 2021 年の夏に 3 号線の建設が始まり、完成は 2025 年頃にになると予想されます。

上述したように、3 号線プロジェクトは、ラテンアメリカカリブ海地域の公共交通機関に対 し、日本の高い品質や技術を紹介するために日本政府が策定した協力モデルと言えます。 このプロジェクトが環境に与えるプラスの影響(騒音と CO2 排出量の削減)を考慮に入れ

ると、このモデルは非常に有意義な資金調達であると紹介されました。そして、日本の公共 交通技術の耐久性と安全性を他国と比較して実証することにもつながるでしょう。

このプロジェクトは政府同士の協力体制であるため、汚職の可能性を 100%排除したこと で、近年の大規模インフラプロジェクトに影響を及ぼしています。 また、日本は協力計画 として、経済協力開発機構(OECD)協力ガイドラインに準拠しているかを評価するために、 OECD にこのプロジェクトを報告しなければなりませんでした。

一言で言えば、3 号線プロジェクトの成功は、パナマとその地域にとって非常に重要なもの です。それは、日本がアジア各国で行ってきたように、日本の高品質なインフラ技術をラテ ンアメリカ地域にも持ち込むための巨大プロジェクトを促進させる要因となるからです。

2025 年以降、日本からの協力のおかげで、パナマ西部のすべての住民が質の高い生活を享 受できるようになることを願っています。

 

訳:畑田紋奈